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読んだ本08 - 仙台ぐらし

 

仙台ぐらし (集英社文庫)

仙台ぐらし (集英社文庫)

 

 

あとがきによると恐らく伊坂幸太郎氏最後のエッセイ。

元々は仙台の出版社、荒蝦夷から2012年に発行されていたものに未収録だった一篇と、あとがきとしてもう一篇を加え集英社から発行された本書。

 

2005年の6月から20012年の2月まで、7年程の筆者の仙台での暮らしを綴ったノンフィクションを基盤にいつもの伊坂フィクションを散りばめたものだった。

 

一般的にエッセイというとなんとなくノンフィクションを想像しがちだけれど、どうやら言葉としては「自由な形式で、気軽に自分の意見などを述べた散文。随筆。随想。」とのことなので、まあエッセイだ。

 

ただ少し待ってほしい。筆者は後書きで散々「エッセイは自分には向いていなかった、もうやらないと思う。」といった旨を書いている。つまりは悩みに悩んで書いたものであって、そうなると“自由な形式”こそクリアしているけれど“気軽に”はものの見事にアウトなわけで、果たしてこれをエッセイと呼んで良いものか、と思わなくもない。まあ別にエッセイであるから読んだわけでもないので良いのだけれど。

 

さて内容だけれど、上でも書いたように基本的には実体験をもとにフィクションを混ぜている。そんなに面白い事が実生活にあると思うなよ、という至極健全な思想で。個人的には毎日過剰にハッピーだったり、問題意識を常に抱えている人の文章を読むと「そんな人間本当にいんのかよ」や「生き辛そうだなあ」などと思い、モヤモヤとしてしまうのでとてもよかった。どこまでが現実か、なんてことを考えてしまうのは野暮なのだろうけど、それもまた面白い。

 

伊坂幸太郎と言えば、初めて読んだのは 「オーデュボンの祈り」で、案山子が物を語り未来を予言する不思議さに興奮を覚え、その後も出版された小説は可能な限り読んでいた。なので、当然の様に氏が仙台に暮らしていることも分かっていて、必然として心のどこかで震災というキーワードも覚悟してこのエッセイを読んだのだと思う。

 

なので全く悲壮感の無い全編は意外だった。そのことについても様々な形で言及されていて、中でも収録されている中で唯一完全に「ストーリーもの」として展開されているブックモビールでの登場人物、渡邊の思想が良かった。背景としては実世界でも起こった東北沖地震があり、主人公達は改造車で子供達に本を無償で貸すボランティアをしている。

 

図書館車両に収納しているのは、主に、子供向けのコミックだ。車両は東京都から貸してもらったのだが、こちらに送られてきた際に収納されていたのは、真面目な文学作品や古い絵本が多かったため、渡邊さんは憤った。この状況下で、小難しい小説など、いったい誰が読むというのか。本や物語が人を救う、という幻想を抱いているのに過ぎないのでは無いか、と。

 

これを書ける作者、というのは何というか、単純に結果だけいうと好感が持てる。

 

他にもエッセイの中で、娯楽小説というものを書いていることに疑問を抱いた作者や、その後に人の言葉によって肯定できた話なども収録されている。

 

考え抜いた結果、悲壮感の無い結論にたどり着く人がボクは好きなのだと思う。

 

なんにせよクスリとくる話が多くて良い本でした。