クロキメモ

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読んだ本10 -虫けら様-

 

虫けら様 (ちくま文庫)

虫けら様 (ちくま文庫)

 

 虫が好きだ。幼稚園の頃、将来は売れない画家になろうと思っていたところ友達と遊んでいるなか崖から転落し、翌年から文集の将来の夢欄に「クワガタ虫」と書いて大いに親に心配されたくらい虫が好きだ。

 

迷いが一切ないように感じる線で描かれた絵に、淡々とした文章で進んで行くこの漫画はマンガと片仮名で表記するのが不適切な気さえしてくる。そして何と言っても虫への造詣が凄い。

えーっと、虫マンガってそもそもニッチな所なのでイマイチ詳しく無いんだけど...サバイビーかな?うん。一番知ってるのでサバイビー。最近だと一応テラフォーマーズあたりがそれに含まれるのか。サバイビーは虫を全力で擬人化した冒険譚だし、テラフォーマーズは例えるならアンジャッシュの柴田さんが語る動物ウンチク的な話に近い。本作は虫の習性も知識としてガンガンに詰め込まれているんけれど、本来もの言わぬ虫と人間の世界を橋渡しする話だと個人的には思っている。「虫」を「虫けら」と貶めてから「様」を付けているあたりからわかる通り、ものスゴく不安定な所を描いている。不安定なところとは何か。説明するのに脳と語彙が足りなくて申し訳ない。その不安定な所だけを抽象的に語るのが蟲師だと思う、とでも言えば少しは伝わるだろうか。

中でも痛烈な印象を残しているのが表題の虫けら様の(5)だ。これは立ち寄った書店で名前に惹かれパラっとめくった所にたまたまあった話だったのだけれど、ミツバチの話だった。いや、正確にはハニカム構造の話だった。ハニカム構造というのはご存知の方も居るかも知れないが、ハチの巣を形成する例の6角形のこと。ハチミツのロゴなどで目にした方も多いでしょう。これが一つの生命体として語り手になっている。「なにそれ、ハニカムは構造やで?」と思われたか。いやいや、地球を一つの生命体としてみるガイア理論の縮小版というか、そもそも命の単位ってどこが基準なんだよという話なので良いでは無いか。それにしてもこの視点。「理解は出来るけど思いつかない」「思いつくけど形にはしない」という所は誰もが目指すべきところで、これを手にした人は何か様子がおかしいのだ。一体何周ハチについて考えたら「よっしゃハニカム構造を1生命体として話書くか」ってなるんだよ、という。そこで一目惚れして買った次第です。多分このブログで初めてKindle化されてない本を紹介している。

 

虫が嫌いな人に勧められるかと言うとなんとも言いがたくはある。リアルな虫も出てくるし。でも、超良いのでオススメです。